どの業界も同じ形をしている
介護や福祉だけでなく、広告も、建設も、システム開発も、防衛も、農業も、医療も、私には同じ形に見えます。上に予算や案件を取ってくる組織があり、その下に何層もの下請けが続き、実際の作業は末端の現場が担う。そして現場は、働く人の頑張りや職人の勘に支えられている。
| 業界 | 上にいるもの | 現場の実態 |
|---|---|---|
| 広告・イベント | 大手広告代理店が官公庁や大企業の案件をまとめて受ける | 制作会社やイベントスタッフが、何層か下で作業を担う |
| 建設 | 元請けのゼネコンが工事を受注する | 1次、2次、3次と下請けが続き、職人が現場を担う |
| システム開発 | 大手SIerが大型案件を直接受ける | 下請けの開発会社や客先常駐(SES)のエンジニアが実装を担う |
| 防衛 | 大手の元請け企業が装備品をまとめて受注する | 部品や加工を多数の中小企業が担い、職人の技術に頼る部分も多い |
| 農業 | 集荷・卸・中間流通が生産者と消費者の間に入る | 生産は高齢化した農家の経験と勘に支えられている |
| 医療・介護 | 公的な報酬制度と、医師の配置などを左右する組織・団体 | 看護師、介護職などの献身と長時間労働に支えられている |
元請けは何にお金をもらっているのか
多重下請けは「中抜き」と呼ばれ、悪者にされがちです。ただ、上の層が何の仕事もしていないかというと、そうではありません。発注者である国や大企業が元請けに払っているのは、次のようなものへの対価でもあります。
- 責任:事故やトラブル、納期の遅れが起きたときに、最後に責任を負う。
- 信用と資金力:大きな案件の代金の立て替えや、下請けへの支払いを保証できる。
- 調整:多数の関係者、発注者の社内事情、許認可の手続きをまとめる。
発注者は、自分で責任を負いたくないから、信用のある大手に保険料のような上乗せを払って任せる。この面は確かにあります。建設業法が、受けた工事をそのまま丸ごと下に流す「一括下請負」を原則禁止しているのも、元請けに実際の役割を果たさせるためです。
問題は、階層がその役割に必要な数を超えて増え、末端に近いほど価格を決める力がなくなることです。そして上の層の強みが、現場の技術ではなく、発注者との関係や調整力、人脈にあるため、現場を効率化する動機が働きにくい。下請けを安く使う構造そのものが、上の層の利益になってしまうのです。
規制は誰を守っているのか
さらに言えば、法律や規制は「安全のため」「公正のため」と言いながら、結果として既にいる事業者を守る壁として働くことがあります。新しく入ろうとする人には許認可や資格や実績を求め、壁の内側にいる人は、守られた市場で競争にさらされにくい。
分かりやすい例がライドシェアです。海外で広がった一般ドライバーによる送迎は、日本では長く認められてきませんでした。2024年にようやく「日本版ライドシェア」が始まりましたが、運営の主体は原則としてタクシー事業者で、地域や時間帯も限られています。規制は緩められても、既存の事業者の管理下でという形になったわけです。
こうした構造の中で、規制に守られた業界と、市場の競争に直接さらされる業界との間で、賃金や待遇の差が広がっていると私は感じています。
もちろん、すべての規制が既得権のためにあるわけではありません。建設の安全基準や医療の資格制度には、人命を守るという本来の目的があります。大事なのは、規制の目的と、実際に果たしている機能を分けて見ることです。
上を倒さなくていい
この構造に正面から挑んで、上の層を倒そうとするのは時間と費用の無駄だと私は考えています。上の層は、ルールを変える側に近いところにいるからです。
見るべきは末端の現場です。多重下請けの一番下では、属人的な技術と長時間労働で、なんとか現場が回っています。ここを仕組みとAIで効率化し、誰でも回せる形にできる事業者がいれば、上の層から見ても「安く、速く、品質が安定した現場」は魅力的な取引先になります。
ただし、第3回で見たとおり、建設や医療には派遣の禁止などの制度上の線があります。建設業法の一括下請負の禁止も、下請けの側に実際の施工能力を求めるものです。現場を担う以上、仕組みだけでなく、法律上の責任を負える体制も一緒に持つ必要がある。現場の仕組み化は、その前提の上に成り立ちます。
その具体的な形として、事業を買って仕組みを入れる方法を、第6回で考えます。その前に、第5回では資格という壁を見ておきます。