法律や制度についての記述は、執筆時点(2026年)の一般的な説明です。個別の雇用契約や事業の判断は、社会保険労務士・弁護士などの専門家に確認してください。
日本ではすぐに解雇できない
仕組みで回す経営を日本でやろうとすると、必ずぶつかるのが解雇の規制です。
労働契約法16条は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効だと定めています。会社の業績を理由にした整理解雇でも、人員削減の必要性、解雇を避ける努力、対象者の選び方の合理性、手続きの妥当性という4つの観点から厳しく見られます。
アメリカの多くの州のように、原則として理由なく雇用を終えられる「随意雇用」とは、前提がまったく違います。正社員として無期で雇えば、ルールを守らない人や仕組みに合わない人がいても、簡単には契約を終えられません。
そこで考えられるのが、雇用の入り口を有期、単発、外部の労働力にする設計です。ただ、それぞれに法律上の線があり、ここを曖昧にしたまま進めると、仕組み全体が紛争のもとになります。
有期雇用で考えておくこと
3か月や半年ごとの有期雇用なら、解雇ではなく「期間満了で更新しない」という形で契約を終えられます。ただし、次の点に注意が必要です。
- 期間中の解雇はもっと難しい:労働契約法17条により、有期契約の途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要で、無期雇用の解雇より厳しく判断されます。
- 更新を重ねると雇止めが制限される:何度も更新して実質的に無期と変わらない状態になっていたり、更新を期待させる事情があったりすると、雇止めにも合理的な理由が求められます(労働契約法19条、いわゆる雇止め法理)。
- 通算5年で無期転換:同じ会社との有期契約が通算5年を超えると、働く人は無期雇用への転換を申し込めます(同18条)。
- 更新上限は最初に明示する:2024年4月から、有期契約の締結・更新の際に、更新上限の有無と内容を明示することが義務になりました。
更新上限を最初から決めておくこと自体は認められています。ただ、書面上は上限があっても、実際の運用で「ずっと働ける」と期待させていれば、雇止め法理が働く余地があります。契約書だけでなく、運用も契約どおりにすることが必要です。
スポットワークと業務委託の線
スポットワークも雇用である
1日単位で働くスポットワークは、多くの場合、働く人と店舗や事業所との直接の雇用契約です。雇用である以上、労働基準法が普通に適用されます。解雇の概念がなくなるわけではなく、1日ごとの契約が成立した後に会社の都合で取り消せば、休業手当などが問題になりえます。厚生労働省もスポットワークについて、この点に注意を促しています。
業務委託は名前ではなく実態で判断される
雇用ではなく業務委託にすれば、労働法の外に出られる、と考えたくなります。しかし、労働者に当たるかどうかは、契約書の名前ではなく、仕事の進め方の実態で判断されます。仕事を断る自由があるか、仕事の進め方を細かく指示されているか、時間や場所を拘束されているか、といった点です。
ここに、仕組み化経営ならではの皮肉があります。仕組みが細かく指示を出し、その通りに動いてもらうほど、働く人は「指揮命令を受けている」と見られやすくなる。画面の指示どおりに動くだけの仕事を業務委託の形にするのは、法的にはかなり相性が悪いのです。実態が雇用なのに委託の形にすれば、偽装請負や、社会保険・残業代の未払いを問われるリスクを抱えます。2024年11月にはフリーランス法も施行され、委託側にも取引条件の明示などの義務が課されています。
シフトを減らして辞めさせる、はやらない
シフト制の契約で、問題のある人のシフトを徐々に減らして自分から辞めるように仕向ける、というやり方も考えられます。しかし、合理的な理由のない一方的なシフト削減は、それ自体が紛争になりえますし、辞めるように仕向ける退職勧奨も、度を越せば違法と判断されます。評判を気にする仕組み化経営にとって、いちばん割に合わない手段です。
派遣の線
派遣は、雇用主が派遣会社になるので、受け入れる会社は雇用のリスクを直接負いません。その分、使い方には細かいルールがあります。
- 派遣できない業務がある:港湾運送、建設、警備、病院などでの医療関係業務(一部例外あり)、一部の士業などは、原則として派遣が禁止されています。
- 期間の制限:同じ人を同じ部署に受け入れられるのは、原則3年までです。
- 日雇い派遣は原則禁止:30日以内の短期の派遣は、例外的な業務や条件に当てはまる場合を除いてできません。
- 待遇の均衡:同一労働同一賃金のルールにより、派遣先の社員との待遇差には説明が求められます。
つまり、建設や医療の現場を派遣の労働力で回す、という発想は、そもそも制度上とれない場合が多いのです。
解雇に頼らなくていい仕組みを作る
こうして並べると、規制を「回避する」ための設計は、どれも線の近くを歩くことになり、紛争の費用と評判のリスクで高くつくことが分かります。
私は、発想を逆にしたほうがいいと考えています。仕組み化の本当の強みは、誰かが辞めても困らないことです。辞めても困らないなら、会社から辞めさせる必要も減ります。
- 正社員として無期で抱えるのは、仕組みを作り改善する少数の人に絞る。
- 現場の人には、有期やパートで、シフトの自由と戻りやすさを最大の魅力として示す。
- ルールと評価基準を最初に明示し、違反や評価は人の感情ではなく記録に基づいて扱う。
- 辞めやすく、戻りやすく、そのことで誰も困らない職場にする。
解雇が難しい国だからこそ、解雇という手段をほとんど使わずに済む組織を作る。それが、日本で仕組み化経営を成り立たせる現実的な道だと思います。