考察:日本の組織はなぜ勝てないのか(6/6)
政府という最大の顧客
国や自治体は、日本最大の発注者です。公共工事、情報システム、防衛装備、広告やイベント、各種の給付事業や委託事業。こうした予算を継続的に受注することで成り立っている大企業は少なくありません。
政府からの受注には、代金の回収が確実で、一度取れば長く続きやすいという大きな利点があります。その一方で、顧客が一つしかない市場には、特有の問題が生まれます。
依存が生む三つの問題
1. 技術ではなく関係で勝つようになる
発注の仕様を決めるのも、評価するのも役所です。すると、良い製品やサービスを作る力より、役所の考えを早く知り、仕様づくりの段階から関わり、手続きをうまく進める力が受注を左右するようになります。天下りを受け入れる理由の一つも、ここにあります。
2. 一度入った業者が抜けにくくなる
情報システムでは、最初に構築した業者でないと改修や運用ができない状態、いわゆるベンダーロックインが長く問題になってきました。公正取引委員会も2022年に、官公庁の情報システム調達について実態調査の報告書をまとめ、特定の業者しか対応できない仕様や、競争が働きにくい調達の問題を指摘しています。
3. 丸受けと再委託
大きな事業をまとめて受注し、実際の業務を何層にも再委託する構造は、政府の委託事業でも起きます。給付金などの事業で、受託した団体から大手企業へ、さらにその先へと業務が再委託され、どこにどれだけのお金が流れたのかが国会で問題になった例もありました。
談合と癒着
発注者と受注者の関係が近くなりすぎると、公正な競争そのものが損なわれます。
業者どうしが事前に落札者を決める入札談合は、独占禁止法で禁じられています。そこに発注する役所の職員が関わる、いわゆる官製談合については、2003年に施行された官製談合防止法で、発注機関の職員の関与を防ぐための仕組みが設けられました。それでも、公共工事や大型イベントの業務をめぐって、談合の疑いで公正取引委員会が刑事告発に踏み切る事件は、今も起きています。
こうした事件は、一部の担当者の不正というだけでなく、発注する側と受注する側が同じ顔ぶれで長く付き合い続ける構造から生まれていると私は考えています。人の行き来があり、仕事の配分についての暗黙の了解があり、外から入る業者はその輪に加われない。
政府からの受注が多い企業のすべてに問題があるわけではありません。防衛や社会インフラのように、民間の市場がほとんどなく、国が主な顧客にならざるを得ない分野もあります。防衛産業では、むしろ利益率の低さから撤退する企業が相次ぎ、2023年には防衛産業の生産基盤を支えるための法律がつくられました。問題は依存そのものではなく、競争と透明性が働かない関係です。
依存する大企業の中で起きること
政府受注に依存した大企業の中では、これまでの回で書いてきた問題がそろって現れやすくなります。
- 優秀さの定義:役所との調整がうまい人が評価され、上に上がる(「優秀」の定義が違う)。
- ポストの配分:天下りの受け入れや、関係維持のための役職が増える(天下りでつくられるポスト)。
- 減点主義:役所との関係を損なう失敗が最も重く見られ、挑戦が起きない(減点主義と、誰も失敗しない文化)。
- 多重下請け:受注した仕事を下に流し、現場の効率化には関心が向かない(多重下請けと中抜きの構造を読む)。
こうした企業は、国内の政府市場では強くても、海外の市場で、製品やサービスの力だけで勝負することが苦手になります。日本の大企業が海外で勝てない理由の一つは、国内で勝つための能力が、関係と調整に偏っていることだと私は見ています。
健全な官民関係のために
私は、政府との取引をなくすべきだとは考えていません。必要なのは、関係ではなく仕組みと実績で選ばれる市場にすることです。
- 発注を分ける:大きな事業をまとめて一社に出すのではなく、分けて発注し、中小や新しい事業者も入れるようにする。
- 仕様を開く:特定の業者にしか対応できない仕様をやめ、データの形式や接続の方法を公開して、乗り換えられるようにする。
- 流れを見えるようにする:再委託の先と金額、受注企業への再就職の状況を公開し、外から検証できるようにする。
発注の仕組みが変われば、受注する側も、関係ではなく仕組みで勝つ企業が有利になります。政府という最大の顧客が変われば、日本の企業の「優秀さ」の定義も変わる。それがこの考察の結論です。仕組みで勝つ会社の作り方は、連載「仕組みで回す会社」で書いています。