考察:日本の組織はなぜ勝てないのか(5/6)

どこで働くかで、報われ方が変わる

同じように真面目に働いても、どの業種にいるか、どの会社にいるかで、賃金や待遇は大きく変わります。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を見ても、電気・ガス、金融・保険、情報通信といった業種は平均賃金が高く、宿泊・飲食サービスや、介護を含む一部のサービス業は低い傾向が続いています。企業規模による差も大きく、大企業と中小企業の間には、同じ業種の中でも差があります。

もちろん、仕事の内容や求められるスキルが違えば、賃金が違うのは当然です。私が問題にしたいのは、働く人の能力や努力とは関係のないところで、報われ方が決まってしまう部分です。

格差を生む三つの構造

1. 規制に守られているかどうか

免許や許認可によって新しい事業者が入りにくい業界では、競争が弱く、利益が既存の事業者に残りやすくなります。逆に、誰でも参入できる業界では、価格競争が激しく、そのしわ寄せが人件費に来ます。

2. 価格を自分で決められるかどうか

介護や保育、医療のように、国が報酬や価格を決める業界では、どれだけ現場が頑張っても、売上の上限が制度で決まっています。介護職員の賃金は長く全産業の平均を下回る水準が続き、国は処遇改善のための加算で上乗せを続けてきました。価格を決めるのが市場ではなく制度である以上、賃金も制度の枠を超えにくいのです。

3. 多重下請けのどこにいるか

建設、IT、広告のように多重下請けが残る業界では、同じ現場で同じ作業をしていても、元請けの社員と、何層か下の下請けの社員とでは賃金が違います。価格を決める力は上の層にあり、下に行くほど弱くなるからです。この構造は、多重下請けの回で詳しく書いています。

格差は「優秀さ」の問題ではない

業種間格差の話をすると、「稼げる業界に行けばいい」「能力があれば上に行ける」という反論が出ます。個人の選択としては、それも正しい面があります。

しかし社会全体で見れば、介護も、建設の現場も、物流も、誰かが担わなければ回りません。そうした仕事を担う人の賃金が、仕事の価値ではなく、規制と価格決定の構造で抑えられているとすれば、それは個人の努力で解決できる問題ではありません。

そして、こうした業界ほど、現場が属人的な頑張りと気質で支えられ、仕組み化が遅れています。低い賃金と遅れた仕組み化は、実は同じ構造から生まれているのです。

仕組み化で格差を縮められるか

私は、制約のある業界ほど、仕組み化の効果が大きいと考えています。

  • 公定価格の業界:売上の上限が決まっているなら、記録や事務、採用、教育といった周辺のコストを仕組みで削り、その分を現場の賃金に回すしかありません。
  • 多重下請けの業界:下の層でも、仕組みで効率を上げられれば、同じ単価の中で利益と賃金を確保できます。上の層にとっても、安定して品質の高い現場は選ぶ理由になります。
  • 規制に守られた業界:競争が弱い分、仕組み化の遅れがそのまま残っています。外から仕組みを持ち込めるプレイヤーには、最も余地の大きい領域です。

業種間格差は、制度の問題であると同時に、仕組みを作る側の人とお金が、どの業界にも行き渡っていないという問題でもあります。