中から変えるのではなく、外から仕組みを持ち込む
ここまでの話をまとめると、私の結論はこうです。
派閥や人間関係、既得権に縛られた会社に、自分で変わることを期待しても難しい。だから、採用・教育の仕組み、業務を指示し確認するシステムとAI、柔軟に働ける人材の運用をひとつのパッケージとして先に作り、それを外から持ち込む。コネや派閥で経営者の座にいる人たちとは別の、第三者(サードパーティ)として、です。
さらに一歩進めると、その仕組みを売るのではなく、仕組みを持ったうえで事業そのものを買い、統合していくほうが速い、と私は考えています。
なぜ買うのか:ロールアップという方法
同じ業界の小さな会社を次々に買い、共通の仕組みの上に載せて規模を大きくしていく手法は、ロールアップと呼ばれ、投資ファンドなどがよく使う方法です。
- 売り手が多い:中小企業庁は2017年ごろ、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人、そのうち約半数の127万人は後継者が決まっていない、という試算を示しました。黒字なのに継ぐ人がいない会社は少なくありません。
- 仕組みは固定費:システムやAI、教育の仕組みを作る費用は、会社を1社載せても10社載せても大きくは変わりません。載せる会社が増えるほど、1社あたりのコストは下がります。
- 説得がいらない:古い経営者に仕組みを売り込んで導入してもらうより、自分で持ち主になったほうが、決めるのも、利益を受け取るのも速い。
狙いやすいのは、業務を定型にしやすく、需要が安定している業界です。ビルメンテナンス、物流倉庫、小売・飲食、コールセンター、介護などが候補になります。
買った後につまずくところ
ただし、M&Aは買った後の統合(PMI)で失敗することが多いといわれます。この構想でも、次の点は甘く見られません。
ベテランを切るとノウハウも消える
古いやり方にこだわるベテランを、買収と同時に全員入れ替えたくなるかもしれません。しかし、現場の属人的なノウハウを仕組みに移すには、そのノウハウを持っている本人の協力が要ります。移し終わる前に人がいなくなれば、そのノウハウは仕組みにも会社にも残りません。まずベテランを「仕組みを作る側」に招き、移し終えてから役割を見直す順番が安全です。
許認可は会社に付いている
介護事業所の指定や建設業の許可は、事業を行う法人に紐づいています。株式を買って会社ごと引き継げば通常は維持されますが、事業だけを譲り受ける形だと、取り直しが必要になる場合があります。買い方そのものが、許認可の設計と一体です。
削れないコストがある
介護には人員配置の基準があり、仕組み化しても一定の人数は置かなければなりません。2024年度の介護報酬改定では、見守り機器の活用など生産性向上に取り組む一部の施設で基準を柔軟にする仕組みが入りましたが、削れる幅には制度上の限りがあります。利益の出どころを、人の数ではなく、事務や記録、採用、教育の効率化に求める必要があります。
高く買いすぎない
「仕組みを入れれば利益率が上がる」と見込んで高値で買えば、その見込みが外れたときに回収できません。改善の余地は、買う前の調査で業務を棚卸しして、数字で見積もっておく必要があります。
名プレイヤーは名監督ではない
日本では、現場で優秀だった職人や、業界で顔が利く人が、そのままトップに立つことがよくあります。そして、そういう組織ほど硬直していきます。
現場で成果を出すことと、誰でも動ける仕組みを設計することは、まったく別の能力です。職人出身のトップは自分の成功体験を仕組みではなく精神論として押し付けがちで、顔が広い人ほど義理やしがらみで不合理な取引を切れません。能力の限界まで昇進した人はそこで無能になる、という「ピーターの法則」は、こうした組織でいちばんよく当てはまります。
だから、現場の技術を持つ人には技術への報酬と敬意を、仕組みを作る人には経営の権限を、と役割を分けることが大切です。とはいえ、顔が利く人の人脈や信用も、それ自体は事業の資産です。買収した会社でその人をどう活かすかも、統合の腕の見せどころです。
まとめ:仕組みを作る側に回る
この連載で書いてきたことを並べると、次のようになります。
- 属人性を排し、誰でも回せる仕組みで経営する(第1回)
- まず採用と教育を仕組みにし、職場の不満の種を構造から減らす(第2回)
- 解雇規制を回避するのではなく、解雇に頼らなくていい組織を作る(第3回)
- 多重下請けの上を倒すのではなく、末端の現場を仕組みで効率化する(第4回)
- 資格は形骸化させるのではなく、細かく切り分ける(第5回)
- 仕組みを持ったうえで事業を買い、統合していく(第6回)
日本の組織は、社会のシステムに順応し、派閥の争いに勝った人がトップになり、その立場を守るルールを作る、という循環から抜け出しにくいと私は見ています。その土俵で戦っても勝てません。土俵の外で仕組みを作り、その仕組みで事業を動かす側に回る。それが、この国で仕組み化経営を実現する一番現実的な道だと考えています。